通信事業者向けの制度の話は、利用者からは遠く見えます。ただ、他社の設備を使うなら何を把握し、障害のときにどう情報を受け取るのか、という論点は、サービスを選ぶ側の確認項目とそのまま重なります。総務省が意見募集を始めた報告(案)を手がかりに、可用性と責任分界点に絞って読み替えます。
この記事の要点
- 報告(案)は、他社設備の利用有無だけでなく、依存する機能・提供者名・SLAで担保された水準まで届出に書く方向を示している。
- SLAは稼働率に応じた返金の基準であって、稼働率そのものの保証ではない、と資料は注記している。
- 意見募集中の案であり、制度側でも結論の出ていない論点が中長期の検討事項として残されている。
通信事業者向けの制度を、利用者側の確認軸として読む
総務省の情報通信審議会 情報通信技術分科会 IPネットワーク設備委員会がまとめた報告(案)は、電気通信事業者が仮想化技術や他者設備を使う場合に、何を把握し、自己確認届出へどう記載するかを検討した資料です。報告概要(案)の日付は2026年8月20日、報道発表は8月21日で、意見募集は8月22日から9月25日まで行われています。確定した規制ではありません。
それでも、そこに並んだ項目は、利用者がサービスを選ぶときの確認軸として読めます。通信サービスやクラウドを組み合わせた基盤では、契約先の事業者がすべての設備を自前で持っているとは限らないためです。資料によれば、国内の移動体通信事業者にはネットワークを完全仮想化している事業者があり、5Gのコアネットワークの機能の一部にパブリッククラウドを用いる構成も取られ始めています。パブリッククラウド環境でAIを使って商用5Gコアを設計・構築する取組も進んでいると記載されています。
問題になるのは、他社の設備を使っていること自体ではありません。障害が起きたとき、どの設備で何が起き、誰が情報を持ち、契約先からどこまで説明を受けられるのか。その見通しを契約前に持てているかどうかです。
届出に書かせる項目を、事業者へ聞く質問に読み替える
報告(案)では、他者設備や仮想化技術の利用について、自己確認届出への記載を求めることが適当とされた項目が挙げられています。利用者側からは、次の質問に読み替えられます。
- サービスの提供に、他社の設備やデータセンターを使っているか
- 使っている場合、どの機能・設備を外部に依存しているか
- その設備やクラウドサービスは誰が提供し、どのサービスを利用しているか
- 可用性について、契約先の事業者は何をどこまで確認しているか
- 平常時と障害時で、契約先と設備提供者の責任分界点と連絡体制はどうなっているか
- 障害が起きたとき、設備提供者からどの情報が、どの条件で提供される契約になっているか
- データセンターの設置状況やクラウドのリージョン・アベイラビリティーゾーンはどう構成され、ある領域が機能不全になったときに何が想定されているか
資料が課題として挙げているのは、他者設備の仕様を決定し一次的な運用を行うのが提供事業者であるため、電気通信事業者の側だけでは把握や運用が難しい場面が生じうる点です。可用性の確保に必要な情報の開示が行われていない、あるいは届出に記載されていないおそれがあること、障害時に総務大臣へ報告するのに必要な情報の粒度やタイミングが、提供事業者が通常提供している水準と異なる場合があることが、具体例として書かれています。
利用者から見ると、窓口が一社にまとまっていることと、その一社が必要な情報を入手できることは、同じではありません。
SLAは、稼働そのものの保証とは限らない
報告概要(案)には、SLAについての注記が置かれています。SLA(サービスレベル契約)は、サービスの稼働率に応じた返金の基準を規定するものであり、サービス自体の稼働率を保証するものではない、という内容です。
そのため「SLAがあるか」だけでは、障害時の見通しは立ちません。契約上どの水準が担保されているのか、その水準を外れたときに何が提供されるのか、障害の原因や復旧の見通しに関する情報提供まで契約に含まれているのか。確認したいのはこの範囲です。
冗長化という言葉も、それだけでは判断が終わりません。資料は、仮想化基盤の冗長構成が取られていても、故障などの発生時に切り替え先の仮想化基盤で仮想マシンが稼働していなければ必要な機能は提供されず、サービスの安定的な提供に支障が生ずる、と指摘しています。設備が二重になっているかではなく、障害時に機能がどう継続する設計かを見る視点が残ります。
依存の範囲
どの機能が他社設備の上にあり、提供者は誰か。名前まで確認できるか。
責任分界点
平常時と障害時で、どこから先が契約先の外側になるか。
情報の流れ
障害時に、原因と復旧見通しがどの契約に基づいて届くか。
集約が進むほど、単一障害の影響が広がる
仮想化やクラウドの利用は、設備配置の自由度を上げる一方で、機能を一つのデータセンターへ集めやすくします。報告(案)では、仮想化技術等の活用により基地局機能の一部で集約化が進み、単一拠点での障害でも影響範囲が広がっている点が課題に挙げられています。国内外でデータセンターの障害に伴う社会的影響が大きくなり、国内でも移動体通信事業者の通信障害につながる事例が発生した、とも記載されています。
利用者の側でも、「冗長化されているか」という一問より、どこまでが同じ拠点やリージョンに集まっているか、そこが機能不全になったときに別の場所で何が続くのか、と聞くほうが構成を掴みやすくなります。重大事故として公表される障害の外側にも、件数としては多くの事故が報告されている、という前提と合わせて見ると分かりやすいはずです。
他者設備を使う場合でも、技術基準への適合性の確認や事故発生時の報告の水準を低下させることがないよう、自らの設備を利用している場合に相当する水準で確認や報告を行うことが必要である、という考え方も資料には示されています。外部の設備を使っていることを理由に説明の範囲が曖昧になっていないか、という見方の手がかりになります。
制度側でも、結論が出ていない論点が残る
報告(案)は、すべてを現行制度の延長で解けるとはしていません。検討の場では、クラウドサービス事業者の内部構造は把握困難であり事業者単独での完全説明は非現実的だ、責任共有モデルやSLA等の約束事に基づく可用性説明の枠組みを整理すべきだ、という構成員の意見が記載されています。現行の物理設備ベースの技術基準は限界に近く、中長期的には抜本的な見直しを考えていく必要があるのではないか、という意見も残されています。
中長期の検討事項として挙げられているのは、集約化の影響が広範に及びうるケースを想定した冗長化の規定の在り方、クラウドサービス事業者等が技術基準への適合性を確認できる新しい仕組み、「設備」に紐づかない技術基準の規定の在り方です。
現時点で利用者が持ち帰れるのは、完成した答えではなく質問の型です。誰の設備を使い、どの機能を依存し、責任分界点はどこにあり、障害時にどの情報がどの契約に基づいて届くのか。契約前にどこまで確認できているかが、障害が起きたあとに説明の所在を追うときの手がかりになります。
参考資料
- 総務省「IPネットワーク設備委員会 報告(案)に対する意見募集」(2026年8月21日報道発表、意見募集は8月22日から9月25日まで)
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