主装置の保守打ち切りを告げる一通の書面から、IP電話の検討は始まることが多くあります。「いま困っていないから」と先送りにされたまま、固定電話を取り巻く制度は静かに塗り替わりました。本稿では、中小企業のIT担当者が選定の現場で判断に迷いやすい3つの軸を整理します。

ある日、保守ベンダーから一通の書類が届く。「現行PBXの保守を、来年度をもって打ち切らせていただきます」──その一文を前に、何から手をつけるべきか分からなくなった、というIT担当者の方が少なくありません。

経営層からは「困っていないなら今のままで」と言われ、見積を取れば数百万円。クラウドPBXという選択肢があることは知っていても、何を比べてよいのか分からない。そういった現場の声をよく耳にします。

この2年で、固定電話の前提は静かに変わった

NTT東日本・西日本は、2024年1月から加入電話・INSネットの局内設備をIP網へ段階的に切り替え、2024年11月までに全国で移行を完了しています。通話料金は距離に関係なく全国一律9.35円/3分(税込)に統一されました。さらに2025年1月、双方向番号ポータビリティ制度が始まり、0ABJ番号(03・06等)を双方向で他事業者へ移せるようになっています。これらの制度変化を踏まえた上で、現場で迷いやすい3つの判断軸を整理します。

2024〜2025年:固定電話を取り巻く制度の変化 2024年1月 NTT IP網への 移行が段階的に開始 2024年11月 全国の移行完了 通話料9.35円/3分一律 2025年1月 双方向番号 ポータビリティ開始
図1:2024年からの2年間で、固定電話インフラの前提条件は静かに塗り替わった。

判断軸 1:「番号は守れるか」を、契約形態まで確認する

「番号は移行できます」という説明は、クラウドPBX各社で標準的になりました。しかし、確認すべきは制度上の対応可否ではなく契約形態です。0ABJ番号は本来、利用者と通信キャリアの直接契約に紐づく番号で、クラウドPBX事業者が間に入る場合、契約名義や持ち出し条件はサービスごとに大きく異なります。

提案を受けたら、見積金額の前に次の3点を文書で確認すると、後の混乱が避けられます。

  • 番号の契約名義 ── 自社名義か、ベンダー名義に巻き取られるか
  • 解約時の持ち出し条件 ── ポータビリティ可能でも、契約上の制限が付くことがある
  • サービス停止時の取扱い ── ベンダー側の障害・廃業時に番号がどうなるか

判断軸 2:「主装置をどうするか」を、業務要件から逆算する

IP電話への移行は、必ずしも主装置を捨てることを意味しません。クラウド集約型・オンプレIP-PBX型・社内ゲートウェイで橋渡しするハイブリッド型の3つが基本選択肢です。比較の場では「初期費用」が前面に出されますが(クラウドなら1〜5万円、オンプレなら数十万円)、価格だけで決めると、業務要件と合わなかったときの戻り工数が高くつきます。

方式を選ぶ前に、次の点を整理しておくと判断が早くなります。停電・回線障害時にも電話を鳴らす必要があるか。社内のビジネスフォン・FAX・警報設備との連携は必要か。拠点間の内線通話を多用しているか。要件次第では、社内ゲートウェイを残すハイブリッド構成が現実解になることもあります。

判断軸 3:「通話データはどこに置かれるか」を、契約前に確認する

クラウドPBXの多くが、通話録音・AI文字起こし・要約を標準オプションとして提供し始めました。便利な機能ですが、その裏で音声データや文字起こしテキストが、どこのサーバーに保存され、どこのAIで処理されるかはサービスごとに大きく異なります。

音声データは、顧客との会話、人事面談、契約交渉、医療問診、法律相談といった機微情報を含みます。海外クラウドAIへ送信されて処理されている場合、医療3省2ガイドライン、金融のクラウド利用ガイドライン、弁護士職務基本規程の守秘義務、ISMAPなど、業界規制との関係で確認が必要になります。「録音の保存先は国内か」「文字起こしを行うAIエンジンは何か(海外クラウドAIへの送信があるか)」「第三者提供の条項はあるか」を提案段階で確認しておくと、後の差し戻しを避けられます。

急いで選ばない、しかし放置しない

主装置の保守期限が迫ってからの選定は、どうしても時間に追われます。ベンダー比較の表を作る前に、番号・主装置・データの行き先という3つの軸を社内で言語化しておくと、各社の提案を同じ基準で並べやすくなります。整理を後回しにすると、「営業のうまいベンダーの提案が一番良く見える」という決まり方になりがちです。

中小企業のIP電話、3つの判断軸 1 番号 名義・持ち出し条件 を契約書で確認する "番号は本当に守れるか" 2 主装置 クラウド/オンプレ/ ハイブリッドを業務要件で "何を残し、何を捨てるか" 3 データの行き先 録音・文字起こしの 処理境界・保存先を確認 "どこに置かれているか"
図2:本稿で挙げた3つの判断軸。各社の提案を同じ基準で並べる際のチェックリストとして使える。

フォースネット株式会社のVOICE-LINEは、全国の0ABJ番号に対応した法人向けクラウド型通信サービスです。番号ポータビリティ制度に対応し、1ch規模の小規模事業所から数千ch規模のコールセンターまで同じ基盤で提供しています。2026年4月からは全通話録音とAI文字起こし・要約のオプションを追加し、音声データを外部クラウドAIに送信しない構成(フォースネット社のデータセンター内の閉域AI BOXによる処理)を選べるようにしています。本稿で挙げた3軸は、他社サービスとの比較にも共通して使える視点です。

参考資料

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